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いんど・いんどシリーズ

インドの時代─インドが分かれば世界が分かる─
 

榎 泰邦著
四六判
定価2300円+税
?ISBN978-4-86103-068-0-C0030
初版/2009年11月
好評発売中
疾風怒濤のアジア三国志時代に突入。
共生か覇権か、漂流する日本は何処へ?
前在インド大使が送る渾身のレポート。


 



インドの時代
二〇〇〇年代に入ってからの力強い成長振りもさることながら、より注目すべきは、インドの長期的な将来性、ないしは持続的な発展見通しである。 BRICs報告で見落としてはならない点は、二〇五〇年時点でBRICs四ヶ国のなかで、五%超の成長を維持しているにはインドだけであると予測されてい る点である。最大の要素は人口動態である。二〇〇五年現在で一三億人の中国に対し、インド人口は約一一億人であるが、二〇二五年頃には両国は一四億人前後 で並び、二〇三〇年にはインド人口は一五億人で世界第一位となる。一人っ子政策の結果、中国の人口は、二〇二五年をピークに減少に転じ、二〇五〇年には一 二億六千万人と二〇〇〇年レベルに落ちると予測されている。これに対し、インドは人口増を続け、二〇五〇年には一七億人前後に達すると見られている。
科学技術、教育、政治的安定性、資源など他の変数が同じと単純化すれば、人口構造が若い方が経済的活力を維持することとなる。インドは、二〇五〇年時点 でも若い人口ピラミッド構造を維持し、労働人口は全体の七〇%弱と予測されている。これに対し、中国は、高齢化社会が急速に進み、二〇五〇年での六五才以 上人口は二六%と現在の日本(同二〇%)以上の比率となる。移民受け入れ国家ブラジルは成長を維持し、中国以上の高齢化社会が進むロシアは低い成長率を甘 受せざるを得ない。かくして、二〇五〇年時点での成長率予測は、インド五・一%、ブラジル三・四%に対し、中国は二・七%、ロシアは二・一%となってい る。人口増は必然的に環境問題を深刻化させる。現在のインドは、日本との比較では、国土も九倍ならば人口も九倍である。すなわち、人口密度は同じである。 それが、二〇五〇年に一七億人ということは、人口密度が五割以上増えることを意味する。果たして、インドの自然が環境負荷に耐えられるかと言う問題が残 る。また、未来予測の信頼性の問題もある。しかし、トレンドとしてインドが若い人口構造の下で、長期に亘って経済的活力を維持していくことは間違いがなか ろう。

インドの将来性を検証するに当たって、人口動態以上に評価の対象とすべきは、政治的安定性である。インドは文字通り「世界最大の民主主義国家」である。 人口一一億の多様性大国でありながら、独立以来、常に民主主義的手続きを経て平穏裡に政権交代がなされ、一度たりともクーデタもなければ、軍事政権の経験 もない。アジアのなかでも真に民主主義が定着している国は、実は数えるほどしかない。アジアにあって、日本を東の民主主義体制のアンカーとすれば、西のア ンカーは疑いもなくインドである。
民主主義は手間とコストがかかる。上海の浦東地区には、かつて三,五〇〇世帯が住む一角があったが、国際会議開催にあたり公園にすることが決定され、立 ち退きから建設まで僅か一年間で完成した。高速道路建設、高層ビル街建設など、強制的な住民移転は中国では日常茶飯事である。法治国家インドでは、こうは いかない。手続きを経て地域の納得を得ないと、必ず住民訴訟で工事は中断される。インドでのインフラ整備遅延の最大の原因が土地収用にある所以である。し かし、民意を吸収する民主的メカニズムが機能するインドでは、中国で年々深刻化し、今や年間一〇万件にも達する農民や農工などによる集団的騒乱事件は殆ど 起きないし、発生しても民主的に収拾が図られる。西ベンガル州で発生したタタ自動車工場用地を巡る農村住民のデモ事件は、結局、タタ自動車が撤退を決め、 収拾に不手際を指摘された政権党・共産党には、二〇〇九年五月の総選挙で大幅に議席を減らすという形で住民の審判が下った。
チベット族、ウイグル族など中国での少数民族問題が深刻化している。インドでも、カシミール問題、北東州の分離独立運動など少数民族問題や地域問題はあ る。時として、テロ事件も発生する。しかし、議会制民主主義が確立しているインドでは、これら住民は政党を結成し、また選挙を通じて自己の意思を政治に反 映させようとする。その上でテロ行為は刑法違反として処罰されるルールが確立している。
経済発展が進むに従ってますます多様化する国民の政治的欲求を如何に吸い上げ、また、権力の集中による汚職問題の深刻化に対し、共産党一党独体制を、如 何なるタイミングで、如何なる形で、如何なる方向へ向けて民主化するかは、中国が避けて通れない重大課題である。また、法の上に共産党が君臨する現在の体 制を、如何にして法治国家体制に移行させるかも大きな課題である。対応を遅らせれば遅らせるほど、国民の不満のマグマは溜まっていくし、改革の社会的コス トもより高いものになる。この民主化の過程で社会的、政治的混乱が生ずる可能性も少なくない。チャイナ・リスクである。
長期的な経済発展にとって最大の条件は政治的安定性である。短期的には開発独裁による効率的な経済成長策によって潤うことはあっても、長期的には政治の不 安定化によって経済も不安定化することは、途上地域各地で経験してきているところである。インドの民主主義体制については、第一章以下で詳しくご紹介する が、インドの将来展望を考える上で、インドの政治的安定性、民主主義体制を通ずるインドの柔構造については、正当な評価を与えるべき点と考える(序章よ り)。

 

目次より
第一章 世界最大の民主主義国家
有権者七億人、有効投票四億票の世界最大の選挙
泣く子も黙る選挙管理委員会
民主主義の砦、最高裁判所
大もての最高裁判事経験者
第二章 インド政治とコングレス党
ネルー老舗旅館のソニア女将
忠実な大番頭マンモハン・シン
インド政党政治の流れ
連合政権時代と地方政党の役割
カースト基盤の地方政党
地域ナショナリズムに基づく地域政党
連合政権時代の継続
二〇〇九年総選挙
ラフール首相実現への期待
第三章 インドの官僚制度
民主主義定着の三要素
合格率四千倍のインド高等文官試験
IAS制度とインド植民地官僚制度
官僚採用試験
官僚のキャリアパス
高級官吏給与の三倍引き上げ
巨大な知的コミュニティを形成する退官高級官僚層
インド民主主義体制を支える官僚組織
第四章 インド政府の中枢サウス・ブロック
インドの大臣数は約七八
官僚組織のトップ、次官
エリート集団、インド外務省
経済スーパー官庁、大蔵省
わが国と関係の深い商工省
わが国にない組織、経済計画委員会
第五章 経済自由化と民族的DNA(その一〜英国植民地の記憶)
徴税権獲得から始まった英国植民地支配
インド繊維産業を根絶やしにした植民地支配
独立後のインド経済政策
第六章 経済自由化と民族的DNA(その二〜一九九一年危機の記憶)
二つの安全装置メカニズムの機能停止
金融危機を救った日本からの緊急融資
第二の民族的DNA
絶妙の舵取りを求められる経済自由化と農村貧困対策のバランス
経済自由化政策の具体的内容
経済自由化の定着は一九九七年以降
自由化で残された分野
経済自由化とITソフト産業
第七章 インド経済の現状と一九六〇年代の日本
日本にとって一九六四年が持つ意味
大衆消費時代の到来
膨大なインフラ整備需要
横溢する起業家精神
第八章 インド・ビジネスの進め方
「目と指先の文化」対「頭と口の文化」
米国以上の訴訟社会
中途半端は火傷のもと
インド官僚機構との上手な付き合い
第九章 インド今昔
二四年間も総理訪問がなかったインド
混み合ってきたインド
グルガオン誕生秘話
水質汚染とペプシ・コーラ不買運動
南インドの躍進
日印関係の緊密化
変わらないインド
平和的共存思想と寛容の精神
絶滅を逃れたアジア・ライオン
第一〇章 日印を結ぶ文化・地下水脈
日本文化の基層を形成するインド文化
バラモン僧正・菩提僊那と東大寺大仏開眼供養
東大寺大仏開眼供養と舞楽、伎楽
サンスクリット語と「かな」
祇園祭り
インド更紗と祇園祭り
日本に定着したヒンドゥー神
第一一章 インド洋の歴史
インド洋がわかればインドがわかる
「インドの地図」をどう読むか
紀元前三〇世紀から始まるインド洋貿易
インド洋仏教文化圏の繁栄(紀元前三世紀?AD七世紀)
インド洋の「イスラムの海」化(七世紀?一五世紀)
中国の登場(七世紀〜)
ヨーロッパ人のインド洋貿易参加(一六世紀〜)
インド洋貿易の覇者変遷
インド洋の「大英帝国の湖」化(一八世紀〜)
インド洋オイル・シーレーン
第一二章 インドの核問題
対印原子力協力に道を開いた原子力供給グループの決定
インド国際問題評議会での講演「核問題と日印関係」 
はじめに
一.日本の核問題政策の原点
(広島、長崎の被爆体験)
(日米安保体制と米国の核の傘)
二.核問題に対する日本の政策
(非核兵器保有の明確化)
(核不拡散政策の推進)
(核廃絶)
三.核兵器保有と国際政治
(核兵器保有の政治的意味)
(インド核実験の事後評価)
(核問題と日印関係)




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