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カバラ・シリーズ

カバラシリーズ THE ANOINTED-アノインテッド 


ドン・イマニュエルとモーラ医師が立って祭りを観察していると、二人の男が彼らの方に向かってやってきた。モーラは彼らがコンヴェルソだと感じ取って、意図的に身を引いた。明らかに独断的なほうの一人が、自己紹介を始めた。
 「ドン・イマニュエル、私の名前はマーティン・ロペスです。こちらがサンチョ・メンドーザです。我々は同教信者であります、と信じています」。ドン・イマニュエルは頷いたが何も言わなかった。不正確に説明されることは何であれ非常に危険であった。異端審問所はもちろんコンヴェルソの情報提供者を使っている。かれはその男が続けるのを待った。かれの連れは立ち聞きされてないかを確かめていた。
 ロペスは続けた。「私たち新クリスチャンは難しい位置にいます。私たちのやること、成すこと、誰にとっても受け入れがたいことなのです。」
 もう一人が頷いた。かれは優しいが臆病な魂の男であった。ドン・イマニュエルはかれに共感を持ったが、ロペスにはためらう所があった。ロペスからは情況に左右されやすい感じを受けた。かれの計算された会話はどうも感情的な慰めを与えているらしい。はっきりと現れているわけではないが、脅されているようだ。メンドーザはまた違う問題である。かれの家族は脅迫されて、改宗したのだろう、彼らが先祖の宗教を相変わらず続けていることを、ドン・イマニュエルは明白に感じとった。異端審問所にとっては、懸念を感じる理由があるのだ。ドン・イマニュエルはメンドーザに頷いたが、何も言わなかった。男はイマニュエルが情況を理解したと感じた。
 この無言の意見の交換に気づかず、ロペスはコンヴェルソについて話し続けた。新しいゲットー(孤立集団)ですよ。ドン・イマニュエルのような称号のある人は受け入れてもらっていますが、それ以外のコンヴェルソの社会はそうではないのです。何年も快適に暮らしてきたゼオーナでもまだ孤立しているのです。これに対して、メンドーザは話し出した。「何が私たちにできるでしょう。この新しい脅威を知ったとして、自分たちをどう護ることができるでしょうか?」話の内容は異端審問所の聖務局のことを意味しているのである。
 「おそらく、全コンヴェルソは団結し戦うべきではありませんか?」ロペスは言った。
 ドン・イマニュエルは頭を振った。「情況を悪くするだけでしょう」
 ロペスは握りこぶしを握って言った。「しかし、何かしなければ、何故、我々が攻撃に出て、敵を破滅させることができないのでしょう?」
 ドン・イマニュエルはまた頭を振っていった。「サラゴサの異端審問所の殺人の後、ユダヤ人とコンヴェルソの虐殺が続いたのを覚えていませんか? いいや、だめだと思います。それは解決にならない」
 「では、何ができるのでしょう?」
 ドン・イマニュエルはしばらく黙ったままであった。どうやってこの情況に対する広い視点を伝えたらよいであろうか。そしてかれは言った。「ユダヤ人はある宇宙的展開の一部なのです。その中である霊的原理を表現するために、ユダヤ人は選ばれたのです。このことが意味するところは、ユダヤ人たちがすることは、良きにしても、悪しき場合でも、他の国に対する因果の法を示すことになるのです。我々の長い歴史は何回も、黄金期の後に大量虐殺がくるというこのレッスンを繰り返しているのです。そのような運命は、名誉とは云えないかもしれませんが、しかし、どのユダヤ人にとってもある種の責任があることになるのですよ。集団意識的にも、個人的にも。しかし、この考えは古代の形にこだわっているかもしれないが、霊の顕現はどの世代にも起こりうるのです」
 ロペスはドン・イマニュエルが言った言葉が理解できなかった。しかし、メンドーサは理解した。ロペスは言った。「申し訳ないが、私は実際的な男でして、ただ生き延びたいだけなのですよ。私たちを助けることができますか?」
 ドン・イマニュエルはその男の限界を感じ、次のように言った。ロペスが情報を悪用しないだろうと判断して「異端審問所に迫害されそうな人を国外に逃がすための計画があるのです。しかし、これは少数を対象にしています。大量の人がこのルートを使うと、ばれてしまいますから、もし、立場が危険になったら、これをお勧めします」
 ロペスとメンドーザはドン・イマニュエルに感謝の意を表した。彼自身がそのように表現すること自体、リスクを負うことを理解していたからである。メンドーザは深く感動して言った。「我々がまだ、互いの面倒を見合うということを知ってうれしいですな」
 ドン・イマニュエルは頭を振って、静かにしかし断固として言った。「私の動機を誤解しないでください。私がこのことを話した理由は人種を超えたところにあるのです」
 メンドーザは困惑し、ほとんど聞こえないような声で尋ねた。「あなたはもう古い方法で祭りごとをやってはいないのでしょう?」
 ドン・イマニュエルは言った。「そのような質問をしないように助言したいですな。情報は簡単に誓約や拷問でもれますよ。何も知らないほうが安全です」
 メンドーザはこの慎重さに知恵深さを感じた。ロペスは満足した。道が見えてきた。逃げるだろう。かれは言った。「来い、必要なものを手に入れたぞ」
 メンドーザは頭を振って言った。「ロペス、荷物をまとめて、出発するのは私にとって簡単なことではないのだ。私は薬の調合をしているし、患者もかかえているのだ。案内をもらったって、すぐ行くことはできないことだよ」
 ドン・イマニュエルは二人の男達の違いと、そして個々の運命が如何に決定されていくかを見ていた。ロペスは生存者になるであろう。逃げ切るだろう。一方メンドーザは良心に災いされ、たぶんここに残り、逮捕されるであろう。メンドーザを励まそうとして言った。
 「バルセローナにあなた達が来る事を連絡しますよ」
 「私はいくぞ。その他に、なにをしなければならないですか?」
 ドン・イマニュエルは答えた。「それぞれ違う日にここを離れ、バルセローナで会うのです。ルッザートのイタリア人の船会社でゴンザロ・サントベという男と接触しなさい。そうしたら面倒みてくれます」
 ロペスはドン・イマニュエルの手をつかんだ。しかしかれは手を引っ込めた。
 「もう、行きなさい。話しは十分しました」
 彼らが一礼し去っていくとき、メンドーザの目には涙があった。そして、それぞれの不安を抱えている家族のところに戻っていった。家族たちもほかのコンヴェルソの小さなグループと部屋の隅に立っていた。彼らにとって、この新年のお祭りはうわべだけのものであった。網が彼らの上でせばまっていることを感覚で捕らえていた。彼らは恐れていた。
 ドン・イマニュエルは自分自身の立場も考えてみた。かれもまた、選択しなければならない。ゼオーナに留まる必要はないのだ。逃げればいいのだ。しかし、何から逃げるのだ。自問自答した。何かが差し迫っていることを気づいたのは、そのときであった。そのような状況であったから、メンドーザとロペスには会話の中で逃げることを勧めたが、しかし、私にはできない。封じられている宿命が何であるのか見届けなければならない。摂理があの家と平和を与えてくださった。今こそ、それを切望しているのかもしれない。突然、人生のなかですべてが、自分がゼオーナに来るように準備されていたことを理解した。かれの人生の仕事の誓約書にサインをする準備をしてきたのだ。まだそれがどのような形をとるかは明らかにされてはいないのだが(第21章より)第21章より。

 
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