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いんど・いんどシリーズ

新図説インド神秘事典

 

 

 

 

 

インド・ショック
「ヤバいところに来てしまった」
こんにちインドを旅する欧米人や日本人が決まってそう思うように、二三〇〇年以上も前にインドに攻め入ったマケドニアのアレクサンドロス大王も、しだいにその思いをつのらせてゆくのである。
まずはインダス河。インド世界をペルシア世界と分かつ河だ。そして、後にして思えば、インダスは現実世界と異界の境を流れる、まさしく三途の河でもあったのだ。河には、怪物どもがひしめいていた。とくにケトスというバケモノは、背から水を噴きあげ、大きな口をあけて人間を呑みこむと信じられている。まったく「ヤバいところに来てしまった」のである。ケトスとはインダス・カワイルカであろう。われわれの
知識では、せいぜいが四メートルくらいのインダス・カワイルカが人を丸呑みするようなことはない。
しかし彼岸では、家一軒の大きさをはるかに凌ぐ巨大な怪物の群れが、丸太のような鼻を振りあげ、パオーッ、ヴァオーッ、と身の毛もよだつような咆哮をあげて、アレクサンドロス軍を威嚇している。ポールスとかいうインドの王の兵器である。インドの土人は馬でも飼うようにして怪物を馴らし、戦争に用いるのだ。
「アブナいところに来てしまった」
アレクサンドロスはその日なんどめかのつぶやきを発した。それでも彼は渡河を強行した。
戦闘の火蓋が切っておとされた。
アレクサンドロスは、得意の密集歩兵隊と騎兵隊の二重攻撃をしかける。
ポールスは自慢の象部隊で応戦する。象はその巨体で敵をふみつぶし、鼻で巻きあげてたたきつけ、牙で串ざしにしと、ありとあらゆるテクニックで殺しまくる。ギリシアの兵と馬は逃げ散った。
戦争の天才アレクサンドロスは、象を焼き殺す作戦に出た。一〇〇〇頭もの馬にペルシアで仕込んできた石油を容れた壼をくくりつけて走らせ、草原に石油をぶちまける。
象軍が迫りくる。火を放つ。象を炙る阿鼻叫喚の炎熱地獄が、アレクサンドロスを勝利にみちびいた。
アレクサンドロスは敗王ポールスと同盟を結び、さらに東に進軍するのだが、
「エラいところに来てしまった」
人間とならいくらでも戦える。が、相手がバケモノとなれば話は別だ。
干戈を交えるインドの軍兵は、しだいに人間としての常態を逸してくる。
ドラゴンや、グリフォン(翼をつけた獅子)や、三つ目の巨人や、頭を胴体にめり込ませた怪物など、そんなヤツらが、砂糖に群がる蟻のように、アレクサンドロスの軍に押し寄せてくるのだ。アレクサンドロスは負けじと、

「おれたちもスゴいんだぞ」

と、巨大な鎧や兜をつくって、わざとインド軍に見つかりやすいところに置く、ということまでやっている。ギリシア人も巨人である、と敵に思いこませるためだ。が、豪胆なアレクサンドロスはまだしも、麾下の将兵たちの我慢の限界はとうに越えてしまっていた。
「わしらは生きながら魔界に来ちまっただ」
「大王、こんなオバケの国はもうこりごりですだ。いっこくも早くギリシアに帰りてえだ」
こうして、さすがのアレクサンドロスも帰還を決意するのである。以上はギリシア側の史料である。インド側の伝承と照合するとポールスというのは、パウラヴァのギリシア訛りであろう。
パウラヴァPaurava とは「プルPuru 王の子孫」の意である。プル王の名は最古の文献『リグ・ヴェーダ』にみられる。『マハーバーラタ』にもクル王家の親戚として登場する。アーリヤ族きっての名門王族なのだ。それがヤヴァナ王アラサンダに恭順したのだ。アラサンダはアレクサンドロスのインド訛りである。他の純粋なアーリヤ戦士も、ヤヴァナの武力の前に全滅した。
しかし、民族主義に燃える祭バラモン司たちがアラサンダ打倒に立ち上がった。バラモンは庶民階級、隷民階級に呼びかけた。
「皆の衆、ともに力を合わせ、ヤヴァナを懲らしめようではないか! けがれた野蛮人の群れを"聖なる国土"(インド)から追い払おうではないか!」
インド民衆は、武器や農具をとり、神出鬼没のゲリラ作戦で徹底抗戦した。バラモンはヤヴァナ軍にしのびこみ、幻術 によって魔物をよひだし、―一種の神経作戦だー、兵士たちを恐怖におとしいれた。そしてヤヴァナの魔王(アラサンダ)はヤーダヴァ族の王クリシュナに殺され、ヤヴァナは敗走し、アーリヤ・ヴァルタの独立は守られた。
再び、ギリシア側の史料に当たると、アレクサンドロスはこれ以上の進軍をあきらめ、インダス河を下り、兵を二分し海路と陸路でギリシアに帰すことにした。その間もインド人の反抗は頑強をきわめ、アレクサンドロス自身も瀕死の重傷を負った。が、彼が帰らぬ人となるのは、インドではなく、バビロンでのことである。
途中、ギリシア軍への反抗を扇動 した多くのバラモンが殺された。屍体は、トビやハゲワシに突つかせるため、路傍に晒された。

   

 
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