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いんど・いんどシリーズ

巨象インドの憂鬱-赤の回廊と宗教テロル-

 

 

 

 

 

 

拡大する赤の回廊
ところで、インドが独立して今日に至るまで、南インドのアンドラ・ブラデシュ州の貧困地帯では、武力行為を辞さない極左過激勢力の動きが後を絶たず、今ではその多くが、ナクサライトの名を公然と名乗って反政府活動を続けている。
これまで活動範囲が西ベンガル州一帯に限られていたナクサライト勢力が、一九七〇年代以降からその勢力が西ベンガル州の外に拡散する傾向を強めはじめた。最近では西ベンガル州に隣接するビハール州からジャルカンド、北インドのウッタル・ブラデシュ州に及び、中央インドのマドヤ・ブラデシュ州、チャッティースガル州、更には南インドのアンドラ・ブラデシュ州、オリッサ州から、西インドのマハーラーシュトラ州にまで及んでいる。
特に注目すべきは、ナクサライトはいずれの州においても貧困地帯で武力行為に出て、その勢いを盛り返している点である。今や西ベンガル州からビハール、ジャルカンド、オリッサ、アンドラ・ブラデシュの各州に至る広大な地域が『赤の回廊』(Red Corridor)と呼ばれ、インドの安全保障体制に深刻な影響をもたらす危険地帯と化している。
インド政府の諜報機関によれば、ナクサライトの勢力範囲はインド全体の四〇パーセント、九万二〇〇〇平方キロにも及ぶ地域に拡大しており、その勢力は二万人に及ぶとされている。マンモハン・シン政権は、ナクサライトをインドの安全にとり最も危険な存在と見なし、これを非合法化する態度に出ている。また、現在ナクサライトと見られるグループの数は約三〇あるものとみられるが、それらを一括して非合法組織と見なし得ない事情がある。それは、CPI─MLのように選挙管理委員会に政党として認められ、選挙に立候補するグループがあるのに対し、CPI─毛沢東主義派やCPI─マルクス・レーニン主義・人民勢力派といったグループは、非合法な武装ゲリラ闘争を続けているからである。
ナクサライトはその後も武力闘争に出る構えを弱めておらず、むしろその構えを強めてきており、それを裏書きする事件を挙げれば、次のとおりである。

・アンドラ・ブラデシュ州首相暗殺未遂テロ 二〇〇三年一〇月一日、アンドラ・ブラデシュ州のチャンドラバーブー・ナイドゥー首相が、州内のティルマラからティルパティのヒンドゥー寺院に向かう道路を自動車で走行中に、ナクサライト(人民戦争グループ)が敷設した地雷が爆発し、一命は取り留めたものの右肩を複雑骨折する騒ぎとなった。
人民戦争グループはアンドラ・ブラデシュ州のテレンガナ地区を活動の拠点としてきたが、州警察の厳しい弾圧によって、一時同地区での動きを後退させたかに見えたが、新たな地区でナイドゥー州首相襲撃を画策することにより、人民戦争グループが新たな地域に進出しているとの印象を与えることが目的であったと見られた。

 ・ビハール州刑務所襲撃事件 二〇〇五年一一月一三日にビハール州の州都パトナに近いジェハナバードで起きたナクサライトの蜂起は、衝撃的な事件であった。この日、機関銃や自動小銃で武装したナクサライト二〇〇人が自家製の武器やナイフを手にする支持者八〇〇人の協力のもとに、市内の刑務所を襲撃して政治犯を釈放させ、その後、裁判所、裁判官の公邸、警察、軍関係施設、弾薬庫を順次襲撃したが、ナクサライトの組織的な動きは軍関係者をも驚かすほどに優れたもので、ナクサライトの行動力の凄さを誇示するものであった。

解決されないインドの貧困
西ベンガル州でのナクサライトが一時鳴りをひそめた背景には、同州でのナクサライトの取り締まりが強化されたことが挙げられるが、ナクサライトが西ベンガル州からジャルカンド、ビハール、チャッティースガル等の州に拡散していったのは、インドそのものがナクサライトの拡散を許す体質を備えていることを見逃してはいけない。
それは、貧困問題を容易に解決できないインドの体質である。インド社会の底辺にあって差別を強いられる低カースト階層の存在、不毛の森林地帯に追い込まれて前近代的な生活を送る部族民の存在が、ナクサライトに格好の活動の場所を提供していることが、ナクサライトの勢力の拡散を容易にする原因になっているものと考えられる。
また、インドの安全保障の観点から特に留意すべき地域としては、西ベンガル州から東北のアッサム州に繋がる細長い回廊に似た地域が挙げられる。この地域で活動するナクサライトは、彼等に対するインド政府の規制が強まれば、隣接するネパールやバングラデシュの領域に逃げ込むことが容易にでき、中国側からの資金、武器供与の面での協力を受けることも可能な地域である。
近年インド政府はナクサライトの撲滅に鋭意努めているにも拘わらず、政府の思惑とは裏腹に、ナクサライトの存在が一向に弱まらないのは、貧困問題の解決が遅々として進まないことに最大の原因があるのではないか。貧困層の根強い支持を受けるナクサライトに、効果的に対処する一番の方法は、インド社会の底辺で差別に喘ぐ貧困層の地位向上を図ることではないかと、筆者は考える。
一九九一年にインドが経済自由化に踏み切って以来、インドは確実に経済発展の道を歩んではいるが、それが貧富の格差を増大させることにもなっており、そのためにナクサライトが蔓延るのも致し方なしとの思いに駆られる。そして、経済発展の恩恵からからますます遠ざかる貧困層に目をやると、よその国のこととはいえ、インドの為政者に対しては「なんとかならぬものか」と文句の一つもつい言いたくなる(第5章より)。

   

 
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