会社概要問い合わせ特定商取引法上の表記個人情報の取り扱いについて  

 

精神世界専門誌・季刊

『とんぱ』2号

 
チベット密教の身体観

はじめに

 チベットでは、密教のレベルを四段階に分け、最高レベルの密教を無上稔伽タントラと呼んでいる。チベットには数多くの宗派がある。ここではダライ=ラマ法王の派として有名なゲルク派で、『秘密集会タントラ』に関係の深い行法を紹介して、無上稔伽タントラの持つ独自の身体観に触れていくことにしよう。

 さて、『秘密集会タントラ』のタンカをご覧になつた方はご存じのように『秘密集会』の本尊、阿閏金剛明妃の触金剛女と抱擁し合う姿で描かれている。この意図についてゲルク派の註釈書には「欲界の衆生で、妙欲(色・声・香・味・触)に対して特別に欲求を持つ者たちをも教え導くために勝者は”抱擁”の姿を示された。」と述べられている。

 これに関連して思い出されるのが、プトン伝としてゲルク派に伝わる『秘密集会』由来の伝承である。十人世紀のラマ、シュラプ=ギヤムツォによると、それは次の如くである。

 まだ釈尊がこの世界で法輪を転じておられた頃、インドの西方の王インドラブーティは、朝は東から西へ、夕方は西から東へと、多くの声聞が移動していくのをご覧になり、「かつて見たこともない生物が多く虚空を移動しているが、あれは何者か。」とお尋ねになった。「東方のインドの中央部にいらっしやるお釈迦棟の脊属の声聞方です。」という返答をお聞きになつて、「巻属を円満したあの御方(釈尊)がたった今この場所に降臨されたら、どんなに素晴らしいだろう。」と王が思った瞬間、釈尊はその思いをお察しになり、喜んで弟子とともにそこへ降臨された。王は次のように申し出た。「私どもが欲望を捨てることなく、成仏する方法をお教えくださいませ。」

 それに村し世尊(釈尊)は出家(僧衣) の姿をたちまち転輪王の姿に変えて『秘密集会』の曼陀羅において灌頂を与え、口訣を与えた。それにより属たちとともにインドラブーティ王は『秘密集会』の道によって即身成仏を遂げた。王は国民たちに法を転じたので、国民はすべて成仏したのである。

 この伝承はプトン(ツオンカバ以前に活躍した十四世紀の中廟派の学僧)のオリジナルのものと比べ、ストーリーはほぼ同じであるが、より詳しいものとなつている。ゲルク派ではこの伝説の論拠を単にプトン伝とするだけであり、またプトン自身はこの伝説の典拠について何も触れずに、単に「巷に流布している説」として述べているだけである。しかしこの伝説の劇的要素のせいか、今日まで『秘密集会』のいわばプロローグとして伝えられているのである。

 このように欲望を断つことなく成仏できる法、つまり欲望のエネルギーを悟りのエネルギーに転換する教えとして位置づけられたのがこの『秘密集会タントラ』であった。

 このタントラには様々な行法が伝えられている。その最もポピュラーなものが、インドの大成就者ナーガルジュナ作とされる『成就法略集』と『五次第』である。『成就法略集』とは「生起次第」に属し、観想を中心としたいわば前行であり、『五次第』は「究意次第」と呼ばれ、大楽を引き起し超人的な力を発揮して成仏するための行法である。

 後者の『五次第』は本来五段階の次第(修行のためのテキスト)であるが、実際は〔定寂身〕という一次第を最初に加えて六次第とするのが一般的である。〔定寂身〕の次第は『五次第』 の最も初期の註釈のひとつであるアーリヤデーヴア著の『行合集灯』の中に見られるもので、「秘密集会聖者流究意次第実践」の第一ステップとして位置づけされている。今回はこの〔定寂身〕と、究意次第で最も重要とされる〔幻身〕という二つの無上稔伽密教における身体技法について述べたい。

 さて本題に入る前に無上玲伽タントラ独自の用語と、それについての予備知識が必要なので見ておこう。

 
ページtopへ
 

copyright 2007 shuppannshinsya all right reserved